あんずジャム
いつも穏やかな表情をしている彼が、こんな風に怒りをあらわにしているのは珍しい。
優羽は一瞬自分の置かれた状況も忘れてそんなことを思った。
そして何より、彼が放った言葉は衝撃的だった。
「俺の彼女に触んなって言ってるんだ!」
坂井は、玲也の言うことが想像を絶するものだったらしく、グッと言葉につまった。
優羽は優羽でそれどころではない。
(彼女…彼女って言った?)
優羽のことを助けるためにとっさに言っただけだというのは分かったが、こんな状況なのについ嬉しいと思ってしまった。
「…っんだよ、彼氏持ちかよ」
坂井は大きく舌打ちをして、歩き出す。
玲也の隣を通り過ぎる時に彼をきつく睨み付け、公園を出ていった。
残された優羽は、どうにかゆっくり起き上がり、服のすそをギュとつかむ。
震えがおさまらなかった。
玲也はそんな優羽のもとに駆け寄って来た。
「…大丈夫?立てる?」
「ちょっと…今は無理…かも」
「そうだよね…隣、座っても大丈夫?」