あんずジャム
優羽の返事に玲也は、空を仰ぎながら「そっか…」と呟いた。
「急いだけど、間に合わなかったか…」
「え?」
「じゃあ彼は、付き合ってたわけでも、優羽ちゃんの好きな人だったわけでもないんだね?」
「ち、違います!坂井先輩はただ委員会が同じだった先輩でっ…」
優羽が否定すると、玲也は何故か安心したように息を吐いた。
不思議に思っていると、玲也の手が伸びてきて、頭をポンと撫でられる。
「……!」
顔がカアッと熱くなる。
耐えきれず「神田さん…」と名前を呼ぶと、彼は優羽の気持ちとは違う意味にとらえたらしかった。
「ごめん!さっきあんなことがあったばかりなのに、また怖い思いさせるようなことして」
「ち、違います…」
慌てて言うが、玲也がちゃんと聞いていたかどうかは怪しかった。
「優羽ちゃん、家の人は?迎えに来てもらう?」
「…親は仕事で家にいる日の方が少ないし、美羽ちゃん…姉は旅行に行ってるので、今日は誰もいません」