あんずジャム
限界 玲也side8
店に戻ると、案の定篤にグチグチと文句を言われた。
お詫びとして、玲也は閉店後の掃除を一人で引き受けることにした。
「じゃー頼んだぞ」
「うん。お疲れ様」
他の店員達も帰って、フロアの中は玲也一人になった。
一人で掃除を引き受けたのは、もちろん途中でいきなり抜けたことへのお詫びでもあったが、何より一人になりたかったのだった。
玲也はモップをかけながらフッとため息をつく。
そして立ち止まり、自分の手をじっと見つめる。
(俺は…何をしようとした?)
公園で、優羽と話した時。
あの男子生徒は優羽にとって恋人でも好きな人でもないと聞き、ものすごく安心した。
その安心と同時に、今、手を伸ばせば彼女に触れることができる距離にいるな、と思った。
それで無意識に彼女の方へ手を伸ばしていた。
彼女の頬に触れそうになる直前、ようやく我に返った。