あんずジャム
これでは、坂井と同じことをしている。
怖い目に遭ったばかりなのに、違う男にも同じようなことをされて、怖くないはずがない。
そう思い留まって、その伸ばした手で代わりに優羽よ頭をポンと撫でたのだ。
そこで手を引っ込めることは──何故かできなかった。
(もう、いっそ気持ちを告げて、振られた方が楽になるのだろうか…)
今まで何度もそう考えたが、そんなことをしたら、優羽は二度と店に来なくかるかもしれない。
今の「仲の良い客と店員」の関係を自ら壊すような勇気はなかった。
(だけど…)
いい加減、我慢の限界なんだということを、今日思い知らされた気分だった。
近くにいる、身近な存在なのに、深くは知らない。
向こうからしてみれば、日常の風景の一部なのかもしれない。
そんな関係で、勝手に想っているだけ。
十分だと思っていたはずだった。