あんずジャム
二階から物音がする。
ゆきねが、新作のメニューを優羽に試してもらうと言っていたのを思い出す。
二人は何を話しているのだろうか。
あのお節介な店長が余計な事を言わないか、多少心配ではある。
でもまあ、気にしても仕方がないと、掃除を再開する。
ガタンという音がした。
(あー…)
嫌でも、上の部屋に優羽がいるのだと変に意識してしまう。
今日、あんな形で助けに入って、どう思われただろうか。
今回、たまたま坂井は優羽の恋人ではなかった。
だが、他に本当のそういう相手がいないなど、言いきれない。
頭にちらつくその事実から目をそらしながら彼女を想い続けることが辛くなってかのも確かだ。
(本当…そろそろ限界だ)
玲也はグッと額を押さえた。
自分の中に沸き上がるこの感情。
この感情をどうにかする術など、玲也が持ち合わせているはずもなかった。
今できることといえば、せいぜい行き場のない感情をモップを持つ力にぶつけるだけだ。