あんずジャム
「でも、ジャムの種類豊富だと思うんだけど、あんずジャムが一番美味しい?」
「はい。あ、でも…」
ゆきねは、パスタが入っていた皿を下げ、代わりに紅茶を持ってきた。
店で出てくる紅茶と同じもののようで、少し嬉しくなる。
「いつも注文するのは、美味しいからっていうのももちろんなんですけど、私にとって、あのジャムはちょっとした思い出で」
「へえ、どんな?」
優羽は一瞬、話そうか迷ったが、ゆきねにだいぶ気を許していたこともあり、初めて【Cafe:snowdrop 】に来た時のことを話だした。
「私、昔から自分の意見を伝えるのが苦手で…だから、ジャムをいくつか試食させてもらった時『あんずジャムが一番美味しかった』って、一緒にいた母に伝えることもしませんでした。」
優羽はその時のことを思い出し、目を細める。
もうかれこれ半年以上経つのだろうか。
「だけど、神田さんが、私があんずジャムを気に入っていることに気づいてくれて…
嬉しかったんです。誰かに分かってもらえたんだって。」
「……間違ってたらごめん、優羽ちゃんさ」
静かに優羽の話を聞いていたゆきねがおもむろに口を開いた。
「もしかして、玲也のこと、好き?」