ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
◆初めて萌ゆる恋心
新年度を迎え、ひとまずホテルの繁忙期を乗り切った。
ベルソレイユでも慌ただしさが薄れ、私もより丁寧な接客をする余裕を持つことができている。
肝心な飛高酒蔵の商品の売れ行きはというと、私がここで売り込んでまだ一ヶ月しか経っていないにもかかわらず、以前より発注が増えたと父から連絡があった。
少しでもいい傾向が見られると、ますますやる気がアップする。家族は皆私のことを心配しているようだったけれど、元気にやっているから安心して、と伝えておいた。
四月の二週目に入った今日も、お客様に飛高酒蔵の良さをたくさんアピールして仕事を終えた。
午後四時半、私と同じく早番の大石さんと一緒に退勤し、ふたりでロビーから外に出るために一階に向かう。
手すりに至るまで綺麗な階段を上り、磨き上げられた一階のホールを歩いていたとき、エントランスに立つ朝羽さんの姿が見えた。
「あら、霞さん誰かを待ってるのかしら」
大石さんも彼に気づいたらしく、なにげなく言う。
私もそちらに注目していると、ガラスのドアの向こうから、サングラスをかけたスレンダーな女性が現れた。その脇に、背の高い強面の男性を従えて。