ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
潤む瞳で目の前の彼を見つめ、微笑み合ったそのとき、コンコンとドアをノックする音が響いた。


「なんだ? なにも頼んでないけど」


兄が不思議そうに呟き、もう一度顔を見合わせてお互いに首をかしげる。

とりあえず出てみることにしたらしい彼は、ドアのほうへ向かい、返事をしながらドアを開ける。

ベッドの脇に立ったままその様子を窺っていた私は、ドアの向こうに現れたスーツ姿の人物を見て瞠目した。


「このような時間に突然押しかけてしまい、大変申し訳ありません。初音は──」

「朝羽さん!?」


美しい所作で一礼する彼の言葉に被せて、私は思わず名前を叫んでしまった。

なんで朝羽さんがここに?

一体どうしたのかと、私も早足でドアに近づく。こちらに気づいた彼は、同時に部屋の中へ入ってきて距離を縮め、私の手を引いた。

瞬く間に抱き寄せられ、驚きで息が止まりそうになる。


「ひゃ……っ! ど、どうしたんですか!?」

「迎えに来ました。なかなか帰ってこないので、心配になって」


わずかに焦燥を滲ませる声が耳元で聞こえ、それで来たのかと納得した。

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