ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
切実な望みを抱きながら、私たちは部屋をあとにした。
またしばしのお別れとなる兄とは、短い挨拶を交わしただけだったけれど、心残りはない。彼も笑顔で私たちを見送ってくれたから。
今、気になって仕方ないのは、朝羽さんの気持ちだ。
さっき、兄は『俺が嫉妬されるとはね』と言っていたけれど、その通りだとしたら……と考えて浮き足立ってしまう。
この際はっきりさせて、自分の気持ちも伝えたい。そう決意し、私の手を引いてエレベーターに向かって歩く彼を見上げる。
「あの、朝羽さん」と呼びかけた次の瞬間、横目でこちらを見下ろす彼と視線がぶつかった。
その瞳には、なぜかひやりとした冷気が漂っているように感じて思わず黙り込むと、彼の口からどこかトゲのある声が投げられる。
「バーに行ったらしいですね。大和から連絡がありました。ふたりがイチャイチャしている、と」
「へっ!?」
予想外の言葉で、私はすっとんきょうな声を上げた。
大和さん、いつの間にそんな告げ口を……というか、なんで変な誤解をさせるようなことを言ったんですか!?
それで心配してここに駆けつけたのか、と納得したけれど、まず否定しなければ。
完全に不機嫌だとわかる朝羽さんは初めて見るし。どうやら虫の居所が悪いときも敬語になるらしい。