ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
「……早く帰りたい」

「えっ、まだ行ってもないですけど」

「初音が可愛すぎるから、そのドレスを乱したくて」


無の表情を崩さずにそんな願望を口にするものだから、私は照れながらも吹き出してしまった。

以前はなにを考えているのかわからないことが多々あったけれど、朝羽さんもいたって普通の男なのだと、最近はよく実感する。それだけ私たちの心が近づいた、という証拠なのかもしれない。

一時だけ緊張を緩めて、朝羽さんの実家に向かうまでの一時間ほどのドライブを楽しんだ。


静かで緑が多い場所に暮らしたいというご両親の意向で郊外に建てられた霞浦家は、高級旅館のような豪邸で、さすがはリゾートホテルグループのトップの住処、という感じだ。

広々とした庭を抜け、黒の御影石が敷き詰められた、品格があるエントランスに入ると、久々に会うご両親が出迎えてくれた。

お義父様は代表としての風格を絶やさず、且つちゃんと父親のぬくもりも感じる休日モードで、私たちに声をかける。


「朝羽、おかえり。初音さんもよく来てくれたね」

「お招きいただいてありがとうございます」

「ふたりが来るの、とっても楽しみにしてたのよ。さあ、上がって」


私が丁寧に一礼すると、嬉しそうな笑顔のお義母様が中へと促す。

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