ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
一瞬驚いたように口をつぐんだお義父様は、「いやいや、ご冗談を」と軽く笑った。しかし、一条社長の声は揺らがない。


「私は本気だよ。朱華と結婚してくれたら、今以上に君たちとの取引を優遇する。まずは、一等地を破格値で譲渡することを約束しよう。新規事業のための土地を探しているんだろう? 朝羽くんの夢だと言っていたぞ」


そういえば彼には、まだ内緒にしている“夢”があるんだった。新しい事業を始めようとしているのか。

そのための土地を安く提供してくれるだけでなく、さらに支援してくれるのなら、朝羽さんたちにとってはだいぶ美味しい話に違いない。

心の奥からみるみるうちに不安が広がっていくのを感じていると、数秒考えを巡らせたお義父様が、落ち着いた口調で言う。


「大変魅力的な話ではありますが、すでに初音さんの親御さんとは結納を済ませておりますから」

「金が無駄になるって? 一般家庭への結納金なんて、霞にしてみたらたいした額じゃないだろう」


一条社長は鼻で笑い、あっさりとかわした。

確かに、こちらの結納返しの負担があまりかからないように、霞浦家からは至極一般的な金額をいただいた。けれど、なんだかバカにされているようで少々腹立たしい……。

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