ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
でも、お義母様は一条社長の話をまだ知らないはずだし、私もそのフリをしなければならない。

一瞬曇ってしまった表情を悟られないよう、なんとか自然な笑顔を作り、「よろしくお願いします」と頭を下げた。


それからしばらくして戻ってきたふたりは、普通に接していたけれど、どことなくぎこちない空気を引きつれているように思えた。私が気にしているから、そう見えるだけかもしれないが。

ご両親に見送られて家をあとにし、マンションに向かう車の中でも、朝羽さんはひとことも一条社長については触れなかった。

お義父様となにを話したのかさりげなく聞いてみても、「仕事の件だよ」と、いたって平然とかわされてしまった。

普段から顔や態度に出ない人だから、本当に仕事の用件だったのかどうかすら、まったく読み解くことはできない。

マンションに着き、だいぶ住み慣れた部屋に入ると、張っていた気が途端に緩む。そして、無性に朝羽さんに触れたくなる。

心を覆う不安から、どうにか助けてほしい。

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