ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜

「初音は疲れただろ。早めに風呂に──」


脱いだジャケットをダイニングの椅子にかけ、こちらを振り向く彼の腰に、私はぎゅっと抱きついた。掴んでいないと、どこかに行ってしまいそうで。

動きを止める彼から、驚きとかすかな戸惑いが伝わってくる。


「初音？」

「……ふたりきりになりましたよ」


ぽつりと呟いた私は、不思議そうにする彼を、わずかに眉尻を下げて見上げる。


「早く帰りたかったんですよね？」


出かける前に朝羽さんが言っていたことを確認してみた。この意味は、ちょっぴり鈍いあなたでもわかってくれるはず。

そう期待した通り、おそらく理解してくれたであろう彼は、キョトンとしたあと、苦笑を漏らした。


「いつの間に俺を煽る術を学んだんだ？」


優しく抱きすくめられ、胸のざわめきが若干治まる。彼の香りとぬくもりは、ときに私をドキドキさせる媚薬になるけれど、今は心を落ち着かせてくれる安定剤のようだ。

朝羽さんは、私の背中のファスナーにかけた手をゆっくりと下ろしながら、耳元で囁く。


「……そうだよ、早くこうしたかった」