ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
ほどなくして、朝羽さんが家を出ていく時間になった。これまでにない気まずさを引き連れつつも、彼のあとに続いて玄関に向かい、「いってらっしゃい」と声をかける。
靴を履いた彼は、出ていく直前にこちらを振り返った。
「夜までには帰ってきてください。絶対に」
静かな憤りが窺える表情で釘を刺され、ドキリと胸が軋む。おそらく無意識だろうが、敬語になっていることからして、多少なりとも怒りを秘めていることがわかる。
もしかして朝羽さんは、私が実家に戻ったまま帰ってこないかもしれないと懸念しているのだろうか。
正直、それも考えなかったわけではないけれど、自分勝手なことはやめようと思い、「はい」と小さく頷いた。
パタンとドアが閉まり、彼の背中が見えなくなる。私は力なく息を吐き、とぼとぼとキッチンに戻った。
シンクに溜まっている食器を洗おうと手を伸ばし、ふと目が留まった。左手の薬指に輝くダイヤモンドの光を、しばし見つめる。
『できるだけつけていてください。他の男性に狙われないように』
結納のあとに言われた言葉と、無表情の中にちゃんと優しさも感じる彼の顔を思い返して、じわっと涙腺が緩む。