ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
自覚すると無性に気恥ずかしくなり、とりあえず部屋を出ようと腰を上げる。初音に毛布をかけて、歩き出そうとした、そのとき。


「私も……」


ドキリとするようなひとことがぽつりと聞こえ、勢いよく振り向いた。

彼女はどうやら眠っているようで、すーすーと気持ちよさそうな寝息を立てている。

驚いた……一瞬聞かれていたかと思った。

もしも起きていたら、すかさず抱きしめてキスしたい衝動に駆られているところだった。思春期の男子学生か、とツッコみたくなる。

きっと夢でも見ているのだろう彼女に、苦笑を漏らす。ほっとしたような、少し残念なような、複雑な気持ちで部屋をあとにした。


 * * *


それからというもの、以前と変わらない態度で初音と接していたが、彼女の些細な変化に気づくようになった。

今日は髪型が違うだとか、疲れた顔をしていたり、上の空になっていたりするときがあるな、とか。

それと同時に、彼女のためになにかをしてあげたくなって、もっと俺に頼ってほしいとも思った。

こんなふうに女性に思考を奪われて、献身的な気持ちになるなど、俺の記憶が確かならば三十年生きてきた中で初めてのこと。

彼女を見ているだけでドキドキする、と形容するのも恥ずかしいが、まさにその表現がしっくりくる。遅すぎる青い春の到来だ。

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