ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
いらないアドバイスが聞こえてきて、俺は目だけを動かし、冷ややかな視線を彼に向ける。


「朝羽がやりたがっていたレストラン経営も、一条社長に協力してもらえば容易に最高の条件を揃えられるだろう。それなのに、このチャンスを逃していいのか?」

「愚問ですね」


フッと鼻で笑い即答した俺に、父は面食らったような顔をして押し黙った。

いつしか自分の中に芽生えていたレストラン経営の夢は、必ず実現させたいと考えている。そのために必要なのは、金や物件だけではない。


「どれだけいい条件を出されても、初音がそばにいなければすべて無意味だ」


淀みのない声で告げると、父は目を丸くしてぽつりとこぼす。


「お前、初音さんのことを……」


どうやら、俺たちの間に愛が芽生えていることに気づいて驚いているらしい。

無理もないかもしれない。母から聞いた話では、父たちも政略結婚であり、ふたりが本当に想い合うようになるまでには長い月日がかかったそうだから。

結婚当初から数年間、事業のために手段を選ばない父のやり方は目に余るものがあったという。女性関係も決してホワイトだったとは言えず、それは俺が物心つく頃まで続いていた。

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