ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
初音は優しく、純粋な子だ。彼らの、経営やら家柄やらの話に影響されて、自分に引け目を感じているに違いない。

そんなことは関係なく、ただ愛しているから初音と生きていきたいのだということを、しっかり伝えなければ。


「俺は、決められているから初音と結婚するわけじゃない。自分の意志で、あなたを愛しているから一緒になりたいと思ってる」


気持ちを落ち着かせ、諭すように言った。しかし、彼女は俯いた顔を上げようとしない。

……まさか、今回の件はただのきっかけにすぎなくて、初音の気持ち自体が離れてしまったのか? 

最悪の展開が脳裏を過ぎり、心臓がドクドクと重い音を立てるのを感じながら問いかける。


「信じられない? それとも、俺を嫌いになった?」


その問いに、初音はようやくぱっと顔を上げたため、否定してくれることを期待した。

しかし、なにかを言おうとした口は、きゅっと結ばれる。そのあとに聞こえてきたのは、「……ごめんなさい。少しだけ、時間をください……」という、曖昧なもの。

いつだってまっすぐ向き合ってくれていた彼女が、迷っていることがショックだった。なにがあっても、お互いを想う気持ちだけは揺らがないはずだと、信じていたから。

< 214 / 273 >

この作品をシェア

pagetop