ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
だがそれは、ただの驕りだったのかもしれない。初音は俺を嫌いになることなどないと、安心しきっていた自分が愚かだったのかもしれない。

うまく取り繕う言葉も、彼女を思いやる言葉も出てこなくて。情けなくも、ため息を吐き出して拳を握りしめるしかなかった。


やるせなさや悲しみで鉛色に覆われたかのような心を抱き、それと相反して晴れ渡った空の下、職場へと向かった。

こんなときでも笑顔を作らなければいけないのは、なかなか辛いものがある。これほどまで心にダメージを負った出来事は、ここ数年では思い当たらない。

一体どうしたらいいのだろう。恋愛なんて初めてなのだ、対処法がわからない。

そして、初音はちゃんと俺のもとに帰ってきてくれるだろうか。一抹の不安を感じる。


重い気分のまま、いつも通り幹部とのブリーフィングを行ったあと、館内を巡回し、オフィスでデスクワークをこなした。

頭の隅で常に初音のことを想いながら午前中の業務を終え、昼休憩に入る。社員食堂に向かうついでに、レストランのオペレーションをチェックするのが日課だ。

日本料理や中華料理を提供しているレストランがある二階を歩いていると、見知った客がいることに気づく。二十代後半のカップルだ。

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