ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
朝羽さんのためを思うなら、父と母に“婚約を破棄したい”と私から言うべきなのかもしれない。昨日から巡らせていたその考えが、一瞬膨れ上がる。

ここで結婚をやめても、一条社長は援助してくれるらしいことを言っていたから、飛高酒蔵は守れるはず。

元々、両親は私を結婚させることをよく思ってはいなかったし、きっと反対はしないだろう。

朝羽さんを愛しているのなら、身を引くべき。そう、頭ではわかっているのに──。


「……大丈夫、皆元気だよ」


笑顔で取り繕う私の口は、その返事しかできなかった。そして、すぐに罪悪感と自己嫌悪に襲われる。

私って、本当にズルくて弱い人間だ。結局、朝羽さんと別れたくないという自分の気持ちを優先しているんだもの。

安心したように笑う母を見て、さらに胸が痛む。


「そう、よかったわ。時間のある限り、ゆっくりしていって」


優しく声をかけるとともに、背中に手を当てて促される。肩を落としつつも、馴染み深い店の中に足を進めた。

レトロな雰囲気の店内には、ここでしか買えない日本酒がずらりと並ぶ。

見慣れた風景で心が落ち着きを取り戻せるかと思いきや、レジカウンターに立つ人物と目が合った瞬間、ギョッとした。

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