ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
わずかな沈黙のあと、朝羽さんが息を吸い、事務的な調子でこんなことを切り出す。


『突然で悪いが、あなたに頼みたいことが三つある』

「え?」

『まず一つ、今夜七時頃までに東京駅に来られるか?』


唐突に頼み事をされ、私はぽかんとしてしまう。

これが朝羽さんの用事だったらしい。それにしても、朝の出来事がまるでなかったかのような、この普通さ……さすがというか、なんというか。

密かに苦笑いして、棚に置いてある時計を見やる。まだ二時前だし、七時なら余裕で間に合う。


「はい、大丈夫です」

『じゃあ二つ目。娘の幸せを願っているが、素直になれない父親に日本酒を贈りたいから、初音が飛高酒蔵で一本選んできてほしい。種類は、大吟醸で』


なんだか細かい指示をされ、私は目をぱちくりさせる。

娘を大切に想っている父親へ贈る日本酒、か……。

頭の中でいくつか思い浮かべる。それを買うこと自体は容易いけれど、一体なんの目的があってのことなのだろう。


「わかりました。でも、なんでですか?」

『理由は後ほど』


先延ばしにされて眉をひそめるも、『あと……』と続ける彼が、さらに突拍子もないひとことを口にする。

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