ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
◆微笑みは麗らかな春の訪れ

多くの酒蔵で日本酒が造られるのは冬だ。

その後半、発酵し終わったもろみを搾り、酒と粕とに分ける工程がある。

その搾りを行った直後にできるお酒が、“しぼりたて”と呼ばれるもの。わが飛高酒蔵では、だいたい毎年二月初旬に造っている。

バレンタインも過ぎた今日、私は親友の真琴(まこと)の実家である居酒屋“うらうら”で、この生酒を味わっていた。

うらうらは、うちのお酒を仕入れてくれているお得意様で、真琴の両親にも昔からとても良くしてもらっている。


適度に賑わうレトロな店内でいつものカウンター席に座る私の隣には、すでに酔っ払っている五歳年上の兄、志楼(しろう)がいる。

新酒ができあがると、こうしてふたりで飲みに来るのが、いつの間にか定例になっていた。

すっきりとしたショートヘアに優しい顔立ちの彼は、ちょっとおバカなところがあるものの、その愛嬌と人懐っこい性格から、男女共に人気がある人。

私は小さい頃から“しろちゃん”と呼び、大好きな彼のあとをずっとついて回っていた。

今は蔵人としてお酒造りを行っていて、ゆくゆくは最高責任者の杜氏である父の跡を継ぐことになる。

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