ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
「初音のその豊富な知識や感性は、お客様だけでなく私の心も豊かにしてくれる。私には、彼女の存在が必要不可欠なのです。仕事でも、人生においても」


──きっぱりと言い放たれた言葉で、じんわりと目頭が熱くなる。

自分がこんなにも必要とされていたのだと知り、胸がいっぱいだった。

唇を結んで瞳を潤ませていると、社長に向き直った朝羽さんが言う。


「今日は、一条社長に見合った酒を彼女に厳選してもらいました。どうぞお召し上がりください」


私が持ってきた日本酒を手で示された瞬間、あることをひらめいて緩んだ涙腺が引き締まった。

朝羽さんが一条社長に相応しい日本酒を買ってくるよう指示したのは、単なるご機嫌取りじゃなく、お酒を通して社長に私なりのメッセージを伝えてほしいからなのではないだろうか。

社長の心情に寄り添えたら、頑なな考えを変えてもらえるかもしれないと考えて。

ぱっと彼を見上げれば、頼もしい表情で私の考えを肯定するように小さく頷いてくれる。なにも打ち合わせていなくても、意思の疎通ができたような気がした。

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