ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
私は箱から黒い瓶を取り出し、「お注ぎします」と言って席を立つ。一条社長のそばに歩み寄って畳に正座し、お酌をするため瓶を差し出した。


「どうぞ。飛高酒蔵の日本酒の中で、最高峰の大吟醸酒です」


大吟醸とは、醸造アルコールを添加した日本酒の中で最高ランクの日本酒のこと。雑味がなく、すっきりとした味わいが特徴で、特に四十代以上の方に根強い人気を誇っている。

固い表情をする一条社長が手に取ったお猪口に、澄んだ液体を注ぐ。

それを口につける直前に、香りを確かめた彼が、ピクリと反応を示した。そしてひと口含むと、強張っていた表情が一気に解れるのがわかった。


「これは……」


ぽつりとこぼした彼は再びお猪口に口をつけ、しっかりと味わったあとに、感心したような様子で頷く。


「こんな大吟醸は飲んだことがない。芳醇な香りがして、辛口なのに角がなく、深みと甘みがある。バランスが完璧だ」

「ありがとうございます。こちらは、“さきはひ”という名前のお酒です」


予想以上にいい評価をもらえて、私も自然と口元がほころび、嬉々とした気持ちで説明を始める。

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