ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
「愛してる以外の言葉が見つからないのが歯痒いよ」


そっと頬に触れて言う彼の心情は十分共感できて、「よくわかります」と深く頷いた。

微笑み合っていると、スタッフに案内されて母が入ってきた。黒い留袖姿の彼女は、私を見て感嘆の声を上げ、朝羽さんの隣に並んで柔らかく目を細める。


「初音のこんなに綺麗な姿を実際に見ると、感慨深いわね。お父さんも志楼も、会ったら泣きそうだからって来ないのよ」

「お父さんはまだしも、しろちゃんは泣くね、絶対」


彼が感極まっておいおいと泣く姿は容易く想像できる。でも、真琴がまた慰めてくれるだろうから心配はいらないだろう。

私と同じように想像したであろう母も、クスクスと笑った。

そして、彼女はスタッフから口紅を受け取り、私としっかり向き合う。支度の最後の仕上げに口紅を塗ってもらう、紅差しの儀と呼ばれる儀式だ。

母は真面目な顔で、細いリップブラシを私の唇に丁寧に滑らせる。


「……お見合いのときは、正直いい式を迎えられるかどうかわからなかった。家業のために決まった相手と結婚をさせるのは、どうしても罪悪感があったし」

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