ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
声のトーンを落としたのもつかの間、口紅を塗り終えた母はすぐに明るい笑みを浮かべる。


「でも、今のあなたはとってもいい顔をしてる。心から好きな人と一緒になるんだっていうのが見て取れるわ。本当に、よかった……」


顔に出ているのが恥ずかしくなるけれど、彼女が心の底から安堵してくれていることがわかって嬉しい。

私も、ずっと心の中に留めているだけだったことを、この機会に伝えておきたい。養女の私を、本当の娘のように大事にしてくれたことへの感謝を。

普段は絶対につけない鮮やかな紅をひいた唇を弓なりにして、母を見つめる。


「お父さんとお母さんには感謝しかないよ。寂しかったり、不自由な思いをすることは一度もなかった。ここまで私を育ててくれて、ありがとうございました」


丁寧に下げた頭を上げれば、瞳いっぱいに涙を溜める母がいて、私の涙腺も緩んでしまう。

父と兄にも伝えよう。きっと皆で泣いてしまうだろうから、式が終わったあとで。

ほろりとしながらも笑い合う私たちを、朝羽さんはそばで優しく見守っていた。


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