ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
そんな救世主である彼らと、いよいよご対面のときがやってきた。

少し緊張の色を濃くして上質な和の雰囲気が漂う廊下を進んでいると、隣を歩く小柄な母が私を見ていることに気づく。


「すごく綺麗よ、初音」


目尻に薄くシワを作ってとても感慨深そうに微笑む彼女に、私は少しだけ照れ臭くなる。

はにかみつつ「成人式以来だね」と言い、上品な華文柄の着物の袖をひょいと上げてみせた。祖母の代から受け継がれてきた、とても大切な着物だ。

セミロングのココアブラウンの髪は、サイドを編み込みにしたアップで、着物の柄の色に合わせた白と唐紅の花飾りをつけている。

成人式でも結婚式でもないのにこんな格好をしていると、ここに来るまでに周りからの好奇の視線をかなり感じたけれど、私は意外といたたまれない気分ではなかった。

結婚に対して迷いがないから、堂々としていられるのだろうか。

背筋を伸ばし、顔を上げてしっかりと足を進める私に対し、笑みを消した母は申し訳なさそうに眉を下げる。


「私たちのために……ごめんね」


かろうじて聞き取れるくらいの声量で、そんな言葉がぽつりとこぼされた。

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