ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
「住民票を移して生活を共にしていれば、婚姻届を出さなくても夫婦として扱われます。周りには同棲している婚約者だと説明しておいてもいいですが、私たちはすでに夫婦だと思って生活すればいいのではないかと」


そうか、事実婚というのは夫婦別姓として捉えてもいいのか。

確かに、そうやって意識していたほうが早く夫婦という関係に馴染めるかもしれない。結婚するまでのお試しみたいな、シミュレーション的感覚で生活できるというのは、なかなか有効な体験じゃないだろうか。

そんな短絡思考でいいのか、と頭の片隅にいる真面目な自分がつっこんでくるけれど、正直ワクワクする気持ちのほうが大きい。


「そうですね。入籍に向けて心の準備もできるでしょうし」


すべてを前向きに捉え、「よろしくお願いします」と丁寧に頭を下げた。

朝羽さんの妻になったらどんな生活が待っているのか、今はあまり想像がつかない。でも、なんとなくこの人なら頼りにできる気がする。

そんな自分の直感を信じて、にこりと微笑みかけた。

すると、朝羽さんはふいになにかに気づいたように目を落とす。その視線の先にあるものは、私の左手の薬指だ。

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