ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
前を歩く父にも聞こえたのか、わずかにこちらを振り返ったあと、白髪交じりの彼の頭が垂れるのがわかった。

ふたりとも、そして今この場にいない兄も、私が無理をしてこの結婚を受け入れたと思っている。『結婚するのは嫌じゃないよ』と言っても、本心ではないと疑っているみたいなのだ。

私は本当に、悲観などしていないというのに。


私の父は蔵元であり、東京から二百キロほど離れたこの地方で、創業百年を超える老舗の酒蔵を営んでいる。従業員はわずか二十名ほどで、私も兄も学生時代からずっと店の手伝いをしてきた。

ところが、日本酒の消費量は年々減少していて、ここ数年の市場規模は下げ止まりの状態にある。アルコール飲料が多様化したことや、若い人たちの日本酒離れなどが大きな原因だ。

老舗日本酒メーカーも次々と倒産している。私たちも例に漏れず、経営状態は厳しくなる一方。

そんなときに手を差し伸べてくれたのが、霞浦代表だった。どうやら彼が父の世話になったことがあるらしく、恩返しも兼ねて援助したいと申し出てくれたのだそう。

その条件が、彼の息子である霞浦朝羽(かすみうら あさは)さんとの結婚だったのだ。

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