ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
こんな至れり尽くせりで緊張感漂う場所で、まだよく知らない男性とふたりで生活するなんて、完璧フィクションでしょう。

これまで暮らしてきたお互いの環境があまりにも違うし、朝羽さんは私を異性として認識しているのか疑うほど至極普通の態度だし、どうしても考えてしまう。

私たちは歩み寄ることができるだろうか。お互いを理解して、尊重し合って、ちゃんとした夫婦になれるだろうか……と。


レースのような薄い雲がかかる空の下、駅まで並んで歩きながらぼんやりとそんな考えを巡らし、あまり混雑していない電車に乗り込んだ。

微妙に開いている私たちの距離や、ポケットに入れられている彼の手を気にしつつ電車に揺られること数分、地元とは違ってあっという間に目的の駅に着く。

その最中に朝羽さんと話して、気になっていた表参道ヒルズを案内してもらうことになり、駅を出ると適度な人が行き交う通りを歩き始めた。

初めての場所に興味津々な私は、少し歩調を緩めておしゃれな街を見回す。

田舎では見たことがないお店ばっかりだなぁ、なんて思いながら朝羽さんの斜め後ろを歩いていたとき、解けていたらしい自分のブーティーの紐を踏んでしまった。

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