ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
両親がものすごく悩んでいる様子でこの件を話してきたとき、私は別段驚くことも、ショックを受けることもなく、むしろホッとしていた。

どうすれば経営難から脱出できるのかわからず、ずっと暗いトンネルにいたような私たちに、希望の光が差したのだから。

結婚することで、大事な店と、両親ふたりを助けることができるなら、喜んで受け入れようと思った。

だから、私は決して嫌々この場にいるわけではない。

……まぁ、嫌々じゃない理由はほかにもあるのだけど。


「今日はおめでたい日でしょ。そんな泣きそうな顔しないで」


ピンク色の口紅で彩った唇を弓なりにして明るく言い、母の肩をぽんと叩くと、彼女は眉を下げたまま微笑んだ。

そうしているうちに部屋に着き、つつじの絵が美しい襖が開かれると、「失礼いたします」と挨拶をして中へ入った。

風情ある中庭が望める座敷の、畳のヘリを踏まないよう歩いて、座布団の横に正座をする。

このときに、初めてお見合い相手である朝羽さんと顔を合わせた。

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