ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
結果、さらに緊張してしまっているという。逆効果だということに、朝羽さんは気づいて……いないだろうな。

無自覚の彼と、騒ぎが収まりそうにない心臓にはもう笑うしかなく、私は差し伸べられた手に自分のそれを重ねた。

腰を上げ、王子様にエスコートされているかのような気分でついていくと、寝室のドアが開けられる。昨日も寝させてもらった場所なのに、改まって「お邪魔します」と断りを入れながら足を進めた。

ベッドの脇で立ち止まる私から手を離した朝羽さんは、「先に寝ていて。髪、すぐ乾かしてくるから」と告げて、部屋を出ていく。

あぁ、ついにこのときが……。

私は一度深呼吸をしてから、覚悟を決めてダブルベッドの中に潜り込んだ。

しばらくしてドアが開かれ、朝羽さんがこちらに来る気配を感じた。羽毛布団がめくられて隣に彼が入ってくると、緊張が加速する。

なんとか平静を保とうとしつつ、仰向けで布団を握りしめてじっとしていたものの、なぜか彼は片肘をついたまま寝ようとしない。

どうしたのかと横目で視線を向けると同時に、思いのほか近くで私を見下ろしていた彼が口を開く。

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