ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
「初音のことは婚約者だと説明してあるが、政略結婚であることは明かしていない。いろいろと詮索されるかもしれないが、そこは適当にかわしてくれ」

「あぁ、適当に……ってそれ、難しくないですか」


一瞬納得しかけたものの、考えてみたら不安が過ぎり、眉根を寄せた。

だって、なれそめやプライベートでのことを聞かれたら困ってしまう。私たちにはまだなんの歴史もないし、婚約者どころか恋人らしくもないのだから。

難色を示す私に、ネクタイを結び終えた朝羽さんは鏡越しに冷静な眼差しを向ける。


「政略結婚だと言ったら、初音が愛されていないと思われるかもしれない。それでもいいのか?」


痛いところを突かれて、はっとした私は黙り込んだ。

たしかに、親が決めた結婚だと知ったら、“ふたりの間に愛はないんだ”と思われかねない。私の事情も知れば、実家のために自分を犠牲にしたと同情されることもあるかも。

惨めな思いはしたくない。私は嫌々結婚するわけじゃないのだから。

でも適当にかわすとなると、皆に嘘をついているようで心苦しい気も……。

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