ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
朝羽さんはじっくりラベルを眺めたあと、瓶を棚に丁寧に置きながら言う。


「清明というネーミングセンスも素敵ですね。水のようにクリアですっきりとした味わいが、その言葉によく合っています」


ふいにお褒めの言葉をもらい、喜びがじわじわと込み上げてくる。

清明とは、春先の万物が清らかで生き生きしているようすを表した四字熟語、「清浄明潔」の略。この意味は、たびたび古語が登場していた祖母の日記で知った。

私が初めてこのお酒を飲んだとき、朝羽さんと同じように感じ、清明という言葉が思い浮かんで名付けたのだ。

きっと彼は私が名付けたことは知らないだろうけど、だからこそ褒めてもらえて嬉しい。

ただ経済的な支援をしてくれるだけじゃなく、私の家族が作ったものを、自分の舌でしっかりと味わってくれていたことも。

朝羽さんに対しての感謝や尊敬の念が少しずつ膨らんでくるのを感じていたとき、「総支配人」と呼ぶ声が聞こえてきた。

振り返ると店の入り口にホテルマンらしき男性がいて、返事をした朝羽さんは私に声をかける。


「じゃあ、頑張って。もしもなにかあったら内線で呼んでください」

「はい」

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