ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
その話も初耳で、改めて朝羽さんのすごさを実感する。

同時に、私はまだ彼のことをほんの一部しか知らないのだと気づかされた。

中国語を話せるということも知らなかったし、どんな学生時代を過ごして、どんな過程を経て今の朝羽さんがいるのかも、私はなにもわかっていない。

なんだか物寂しい気分になりつつある私の向かい側で、梢さんはふう、と息を吐いてどこか遠い目をする。


「サラブレットでエリート、その上あの容姿。あんなにハイスペックな人との結婚、私だったら尻込みしそうだけど、初音ちゃんは迷ったりためたらったりしなかった?」


そう問いかけられた私は、食事する手を止めて考えを巡らす。ここは例のイメトレではなく、本当のことを言おうか。


「……迷いはなかったですね、不思議と」


確かに朝羽さんほどの男性との結婚となれば、単純に浮かれてばかりもいられないだろう。

でも、政略的だったから開き直っていたとはいえ、私がすんなりと婚約できたのは、おそらく彼の人柄のおかげだと思う。


「最初に会ったとき、朝羽さんは私のガサガサに荒れまくった手を見て『綺麗だ』って言ってくれて。それだけで、この人にならついていきたい、って思ったんです」

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