ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
お見合いのときの手のぬくもりを思い出して答えたものの、あまりにも理由が簡単かなと恥ずかしくなる。


「行きすぎた直感ですね」


自嘲気味の笑いを漏らしてスプーンを動かし始めると、真面目に聞いていた梢さんはふっと表情を緩め、「ううん」と首を横に振った。


「素敵よ、そういうの。なにがきっかけで決断するかは人それぞれだもの。それに、ふたりは盲目的な感じもしないし、なんか安心して見てられるっていうか。お似合いだなって思うわ」


彼女の温かい言葉が素直に嬉しくて、私も顔をほころばせた。

しかし、晴れてきていた心に、再び灰色の雲が広がり始める。私たちは、梢さんが思うような関係ではないから。

恋愛しているわけじゃないから、盲目的でなくて当然なのだ。

周りが見えなくなるほど恋にのめり込むのは、あまりいい状態ではないだろうけど、今は少し羨ましい。

なんとも言えない歯がゆさを感じながらも、優しい梢さんといるのはとても心地良く、美味しい料理とともに仕事から離れた話をして優雅なひとときを楽しんだ。


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