ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜

その日の夜、夕飯を食べてお風呂に入ったあと、私はリビングのソファに座って、梢さんが教えてくれたよく使う英文をおさらいしていた。

“いらっしゃいませ”や“少々お待ちください”という定番の文句にも、いろいろな言い方があるらしい。彼女が紙に書いてくれたそれを、ひたすら声に出して覚える。


「えっと、クッジュー、ウェイトフォー……」

「Could you wait for a moment,please?」


お粗末なカタコトの私に手本を示すように、耳元で流暢な英語が囁かれた。

驚いて振り向けば、思いのほか近くに朝羽さんの綺麗な横顔があってドキッとする。お風呂上がりの彼は、ソファの後ろから私が持つ紙を覗き込んでいた。

昼間も思ったけれど、彼のいい声で紡がれる英語は妙に色っぽい。いたって日常的なセリフを口にしているだけなのに。

人知れず鼓動を速める私に、朝羽さんはタオルで髪を拭きながら感心したように言う。


「さっそく英語の勉強か。偉いな」

「少しでも早く慣れたくて。外国の方にも、いつか自分の口でうちのお酒を紹介できるようになりたいです」

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