ご縁婚〜クールな旦那さまに愛されてます〜
テーブルの横に立つ彼はそう言い、ポリポリと頭を掻いた。その様子はどこか決まりが悪そうに見える。


「昼間、少し冷たくしてしまったかな、とあとから思ったもので。気にしていないならいいんですが」


目を逸らし、微妙に敬語を交えて口にされた言葉に、私はぽかんとしてしまった。

もしかして朝羽さん、昼間のことで私を落ち込ませてしまったと思って、元気づけるためにこれを買ってきてくれたの?

そんなにヘコんではいないけれど、もしそうだとしたらやっぱり嬉しい。彼のその気遣いが。

バツが悪そうにする彼は初めて見る。こういうときは無意識に敬語になるらしい。

ちょっぴりおかしくて思わず緩んでしまう口元を隠しもせず、私はにごり酒の瓶を手に取った。頭の中には、祖母の日記の一文が蘇る。


【あなたと初めて仲違いをして、気まずくなった日はまるで花曇りの空のようでした】


私たちはケンカをしたわけではない。でも、今日のことで朝羽さんのことをまだなにも知らないと実感して、私の心はまさに花曇り状態だった。

目標の夫婦に近づくためにも、この霧を晴らしたい。

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