伝えられない想いをショコラに託して
「今日もありがとう。冷蔵庫に入っていたきんぴらをつまんだけど、おいしかった!」
「それは、よかったです」
徹さんの柔らかい笑みが思い浮かび、私の頬も緩む。
「……それと、バレンタインデーのチョコケーキ?も、ありがとう」
いつもより歯切れの悪い徹さんの話し方に、気持ちが沈んでいく。
やっぱり余計な事をしてしまったんだ……
徹さんへの想いは、私の中で確実に育まれている。
徹さんはクライアントだし、全然釣り合わない!…そう言い聞かせても、もう想いが溢れてしまいそうで……
バレンタインデーを利用して、伝えられない想いを、甘さを抑えたガトーショコラに託した。
「あの、あれは感謝…」
慌てて言い訳をしようとした私の言葉を、徹さんが遮った。
「添えてあったカードの『徹さんへ』『灯里より』の間に、すごく空間があったけど、あそこには灯里ちゃんのどんな想いが込められてるの?」
「あっ……」
カードを添えたけど、変なごまかしや嘘は書きたくなくて、でも、私の本当の想いを記す訳にはいかない。
だから結局、徹さんの名前と自分の名前しか書けなかった。
昨年、仕事の為に徹さんのマンションに行った時、バレンタインデーでもらったチョコレートがたくさんあった。
とても高級そうなチョコレートもあったけど……
一人では食べきれないから、よかったら職場のみんなで食べてと、いくつかのチョコレートをいただいた。
「どんなに真剣に想われても、応えられないから…申し訳ないよね」
眉尻を下げ、困ったように笑う徹さんを思い出す。