明日死ぬ僕と100年後の君
わたしも父親はいないけど、父親の記憶なんてないし、いないことに傷つくこともほとんどない。
でも有馬はちがうだろう。
家族みんなが一気にいなくなった。つい3年前までは生きていて、同じ車に乗っていたのに、有馬以外が同時に死んでしまった。
その恐怖や悲しみは、わたしにはとても想像がつかない。
その傷がどれほど深く大きなものかも。
「ごめん……」
気付けば口元を手で覆い、そう呟いていた。
ここに有馬はいないのに。
「いや、別に責めてるわけじゃないんだ。大崎さんは知らなかったわけだし。だから言っておこうと思っただけで」
「うん……教えてくれて、ありがとう」
「あ、でも俺が話したことは秘密な? 話したけど、大崎さんに何かしてほしいとかじゃないんだ。ただ、ちょっと頭の隅っこに置いておいてほしいっつーか」
「わかってる。大丈夫だよ」
わたしの返事に、柳瀬くんはほっとしたように笑うと、少し気まずそうに坊主頭をかきながら歩き出す。
先に行く大きな背中を見つめ、こっそりとため息をついた。
大丈夫って、一体なにが大丈夫なんだろうと自問する。
有馬に対する自分の気持ちが、ますますわからなくなっていった。