明日死ぬ僕と100年後の君
可愛いのと羨ましいのとで、わたしにとって小さな子どもは何よりも眩しい存在だ。
そう再確認した時、目の前に立つ聖人と呼ばれる男が呟いた。
「だから僕は君みたいな人は嫌いなんだ」
「……え?」
それはわたしにだけ聞こえるように呟かれたものだった。
少し下にある隼人くんの耳には届いていない。
冷や水を浴びせられたような気持ちで有馬の方を見れば、彼は真顔から作り物めいた笑顔へとその形を変えて見せた。
「逆だよ大崎さん。死んだら宿題もできないんだよ」
そう考えたら、宿題が出来る幸せを噛みしめたくならないか?
宿題が出来るなんて、贅沢なことだとは思わないか?
そんな有馬の声が、聴こえた気がした。
そして自分の失言に、わたしはようやく気が付いた。
家族を亡くしている有馬の前で『死にはしないしね』なんてことを軽く口にするなんて、無神経もいいところだ。
またわたしは、意図せず有馬を傷つけてしまった。
もう……何をやってるんだ、わたしは。