明日死ぬ僕と100年後の君
「隼人くん。僕たちのテーブルにおいで。楽しく宿題が出来るように教えてあげるよ」
隼人くんの肩に軽く手を置くと、有馬はわたしたちに背を向けて宿題に取り組む子どもたちのもとに戻っていった。
額に手を当てて、うなだれる。
失敗した。やってしまった。
自分のデリカシーのなさに、怒りを通り越してあきれる。
誰とも深く関わろうとしてこなかった結果がこれか。
「あのにーちゃん、なに言ってんだ? 死んだら宿題できないなんて、当たり前じゃん」
心底不思議そうに言う隼人くんに、わたしはうなずくこといか出来なかった。
「うん……そうだね」
そう。それが当たり前だ。
当たり前だから、みんなわざわざそんなことを意識したりはしない。
意識するのは、生きていることが当たり前じゃない人だけだ。
「変なにーちゃんだなあ。ま、楽しく宿題できるって言ってるし、ちょっと行ってくるわ」
面倒そうに言いながらも、隼人くんの表情はどこか期待に満ちていて、有馬のあとを追う足取りも軽やかだった。
どこかから、わたしを責める猫の鳴き声が聴こえる。
いつの間にか強く握りしめていたらしく、手の中に残った紙の剣はくしゃりと潰れ折れていた。