明日死ぬ僕と100年後の君
呆然としているわたしに「だからおっさんっぽいって言っただろ」と有馬が言う。
続いて猫が「俺がどんな見てくれでどんな声してようが、関係ねぇだろ」と実に荒っぽい口調で言うので、がくりと肩を落とした。
なんとなく、残念だったのだ。
猫が喋るという珍事よりも、見た目と声のギャップがショックだった。
これは詐欺だ。
猫の鳴き声は鈴をころがすような可憐さなのに、人の言葉で喋る時はおっさん声だなんて。
「ひどい。騙された気分……」
「おかしな娘だな。俺の存在より声の方が気になるらしいぜ」
「大崎さん、ちょっと変わってるから。っていうかおっさん、どういうつもりだよ。大崎さんに変な力を使っただろ」
「あんまりお前のことを気にしてるみてぇだからな。ちょいと見えねぇもんを見えるようにしてやっただけだ。害はねぇよ」
悪びれない猫の態度に、有馬はひとつため息をつくとわたしを見た。
きれいな琥珀色をした、けれどどこか澱んで見える目が向けられぎくりとする。
「君が見たのは、ひとの命だ」