明日死ぬ僕と100年後の君
◇1日の分母とその確率
家に帰ると、こもった湿気に出迎えられた。
おんぼろな我が家は、冬は寒いのに夏は暑い。
肌にまとわりつく空気をいつもなら不快に思うところだけれど、いまはどうしてか気にならなかった。
静まり返った居間を素通りし、縁側を進む。
ギシギシと鳴る板敷まで、靴下越しでもべとついているのがわかる。
「ただいま」
思った通り、おばあちゃんはひいばあの部屋にいた。
洗面器の上で、タオルを絞っている。
薄暗い部屋の中、洗面器から立つ白い湯気が微かに揺らいで見えた。
おばあちゃんはちらりとわたしに視線を寄越し「お帰り」としゃがれた声で返してくれる。
「遅かったね。突っ立ってないで、こっち来て手伝いな」
「うん」
ひいばあの清拭の際中だったらしい。
自分で動けないひいばあの入浴は大変だ。
ひいばあが沈んだり転んだりしないよう、支えながら入浴介助をするのは骨が折れる。
介護する側は全身汗だくになり、しばらくぐったりと動けなくなるほどだ。