明日死ぬ僕と100年後の君
まさか。まさか。
ありえない。そんなはずない。
そんなはず、あるわけない。
あっちゃいけない。
走りながら、嫌な予感で頭がいっぱいだった。
自分がどうやって走っているのかもわからない。
地面を蹴る感触もわからないまま、ただ目の前の背中を追いかけた。
どうか杞憂で終わって。
どうか、どうか。
すでに集まり始めていた人垣をかきわけて、前に出る。
ガードレールから身を乗り出すようにした瞬間、あまりの光景に反射的に目をつむってしまった。
アスファルトに横たわる人影。
見覚えのあるクリーム色のワンピース。
その傍で泣きじゃくる、三つ編みおさげの女の子。
アスファルトの上に、ゆっくりと濃いシミが広がっていく。
赤黒く見えるそれは、忍び寄る死の匂いをまき散らしていた。
不意に「ナアン」と猫の鳴き声。
ガードレールの向こう側に、あの奇妙な猫がいた。
一体いつからそこにいたのか。
その時ようやく理解した。
あの猫は“本物”なのだと。
あれが有馬に1日分の命と、他人の命を奪う力を与えた存在だと。
死神は、いつだって有馬のそばにいた。
人間臭い猫の皮をかぶって、するりとわたしたちの日常に溶け込んでいたけれど、あれは間違いなく、死を呼ぶ存在なんだ。
猫は立ち尽くす有馬を見つめていた。
有馬は、事故にあった親子を見つめている。
わたしはただ、震えていた。
取り返しのつかないことが起きた。
それだけは、確かだった。