明日死ぬ僕と100年後の君
◇崩れ落ちる天秤
病院関係者しか入れないガラス戸の向こう側。
そこには3つの手術室があり、その扉のひとつに、手術中を示す赤いランプが灯っていた。
ガラス戸手前の廊下にあるベンチに、わたしと有馬は並んで座っていた。
ここは病院の中でも、いちばん静かな場所かもしれない。
言葉もなく、長い時間を耐えて待つだけの空間。
そんなことを考えながら、有馬の握りしめられた手を見つめる。
事故の直後、青褪めた顔で固まっていた有馬。
けれど彼は誰より早く、横断歩道に倒れた女性に駆け寄った。
「聞こえますか! しっかり!」そう声をかけながら、女性の身体をざっと見て、膝をついた。
溢れ出る血の海に浸かることを、構いもせずに。
シャツを脱ぎ、女性に押し当てる。
血を止めようとしているのだとわかり、信じられない気持ちで有馬を見た。
そんなことをしてもムダだ。
わたしを含めて、その場にいた野次馬全員がそう思っただろう。
それくらい、女性の命は絶望的に見えた。