明日死ぬ僕と100年後の君
この事故は偶然だったんだろうか。
それとも、必然だったのか。わからない。
でも、有馬にはわかっているのかもしれない。
そっと、握りしめられた白い左手に触れる。
有馬の肩が跳ねる。
びっくりするほど冷たくなっていた手を、包み込むようにして温める。
わたしの言葉なんて、いまの有馬にはきっと届かない。
だからせめて、体温を分けてあげたいと思った。
やがて左手がふと緩むと、こわごわといった風に、わたしの手を握り返してきた。
涙が出そうになった。でも、我慢する。
有馬が泣いていないのに、わたしが泣いていいわけがない。
もうここに来てどれくらい経ったのか。
随分と長い時間、待っている気がする。
有馬にとっては地獄のような時間かもしれない。
警察の人が来たけれど、わたしたちが事故のあとに手当をしに駆け付けただけだと知ると、いくつかの質問のあとすぐに帰っていった。
ガラス戸の向こうでは、手術室に何度か出入りするスタッフが見える。
でも一向に手術が終わる気配がない。
そろそろ家に連絡をいれないと。
そう思った時、廊下の奥のエレベーターが開いた。
降りてきた看護師は、お母さんだった。