明日死ぬ僕と100年後の君
時には意味のわからない、理由さえもわからない言動をとったりする。
自分を「大嫌い」だと言ってきた相手に、恋に落ちるように。
「あんたがここにいても、出来ることは何もないわ。さっさと帰りなさい」
冷たすぎることを言うと、お母さんはガラス戸の向こうに駆け足で消えていった。
「たぶん今日は帰れないから」とひとこと残して。
繋いだ手の先を見る。
こんな状態の有馬を、ひとりになんてしておけない。
お母さんにまた何て言われようと、待っていよう。
有馬の傍にいよう。
そう思った時、またエレベーターが開いて、こちらに歩いてくる人影があった。
今度は看護師じゃない。
上等そうなスーツの上に真っ白な白衣を着た、医者らしき人だった。
その人はわたしたちの前まで来ると、なぜかぴたりと足を止めた。
白髪混じりの髪をしっかりと後ろに撫でつけたその人は、老人と呼ぶには少し抵抗があった。
目元のシワは深いし、口元の髭は白い。
けれど姿勢が良く、目には力があり、他者を圧倒するオーラみたいなものを感じる。
「夕星」