明日死ぬ僕と100年後の君

わたしはふたりが“親子”だった時期を知らない。

物心ついた時にはすでに、ひいばあは認知症が始まっていたし、おばあちゃんはひいばあのことを「ばーさん」と呼んでいた。


ひいばあが認知症になるよりももっと前。

たとえばお母さんがまだ子どもだった頃。

ふたりはどんな関係だったんだろう。

お互いがお互いを、どんな風に思っていたのだろう。


おばあちゃんはひいばあのことを、好きだったのだろうか。

大切に思っていたのだろうか。



「でも器が小さいのはどうしようもなかった。短気で口が悪いのも、きっと死んでも直りゃしない。だからもう意地だったね。自分は介護に向いてないって早々に気付いていたけど、絶対にこの人を家で看取るんだって。それしか恩を返す方法を、思いつかなかった」

「……そっか。おばあちゃんらしいね」


素直な感想を口にすると「生意気言うね」と頬を軽くつねられた。

ちっとも痛くないので、されるがままになっておく。


「自分がこうだからね。あんたのお母さんにはなんにも期待しちゃいないよ。あの子はあたしに似ちまった。あんまり器はでかくない。でもあんたはたぶん、あたしらよりは随分マシだ。だからあんたのことだけは、良かったなあと思うんだよ」

「おばあちゃん……」

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