明日死ぬ僕と100年後の君
不意に届いた声にハッとして、血の気がうせた白い顔を見下ろす。
世界に音が戻ってきた。
やかましいほどの喧騒が。
野次馬のざわめき、車のクラクション、カメラの撮影音、そして救急車のサイレン。
日常が戻っていた。
「あ……有馬! もうすぐ救急車が来るから! 死なないから! 有馬は生きるの! わたしと一緒に生きるんだからね!」
投げ出された手を、今度はためらいなくつかみ、握った。
冷たい手に熱を分け与えるように、強く強く握りしめる。
一瞬、握り返された気がした。
本当に微かな、弱々しい力で。
けれど直後、その手は血でぬるりと滑り、アスファルトに落ちる。
わずかに開かれていた瞼が、物語の終わりを告げる幕のように、ゆっくりと降ろされていく。
「有馬……っ!」
猫の声は、もう聴こえない。