明日死ぬ僕と100年後の君
「ああ……。それは、そうかもね」
「それに、あれから“おっさん”も現れなくなっちゃいましたしね。誰かに飼われたんですかねぇ」
「……うん。そうだといいね」
去年のあの出来事以来、猫の姿は一度も見ていない。
あれは幻だったのだろうかと、いまでは思うようにもなった。
けれどわたしたちの記憶にはまだ、しっかりとあのふてぶてしい猫は居座っている。
人間なんてどうでもいいぜというように、前足で顔を洗い、伸びをして、学校のあちこちを闊歩する猫が時々、視界の端に映る気がした。
「今日は児童養護施設のボランティアの打ち合わせでしたよね! 大崎先輩が仲良くなった子、名前なんでしたっけ」
「隼人くんのこと?」
「そうそう。彼、まだいますかね」
「どうかなあ。先月まではいたみたいだけど。手紙が来たから」
「えっ? 大崎先輩、隼人くんと手紙のやりとりしてたんですか」
2ヶ月に1度くらいの頻度で、隼人くんは施設から学校宛てに手紙をくれている。
便箋一枚に大きく、きれいとは言いがたい文字で【ねーちゃん元気か。俺背が2センチ伸びた】と書かれているだけだったりするのだけれど。
それもやりとりと言うのなら、そうなのかもしれない。